AIリスキリングの助成金|従業員のAI研修で最大75%戻る制度と、申請の流れ・計算例

「AI研修は助成金で7割以上戻る」という案内を、よく見かけるようになりました。たしかに国の助成金はあります。ただし、申請できるのは会社(事業主)で、手続きの順番を一つ間違えると1円も出ません。
この記事では、従業員にAI研修を受けさせたい中小企業・小さな会社の経営者向けに、厚生労働省の「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」を整理します。受講料ごとに「実際にいくら戻るか」も計算しました。内容は2026年10月20日に厚生労働省の公式資料(令和8年8月3日版のパンフレット・支給要領)で確認したものです。
まず整理:「助成金」と「補助金・給付金」はここが違う
似た言葉ですが、AI研修の分野では誰がもらうかで分かれます。
| 呼び方 | 主な制度 | もらう人 | 向いている人 |
|---|---|---|---|
| 助成金 | 厚労省「人材開発支援助成金」 | 会社(事業主) | 従業員にAI研修を受けさせたい経営者 |
| 補助金 | 経産省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」 | 個人(スクール経由) | 転職をめざす会社員 |
| 給付金 | 厚労省「教育訓練給付」 | 個人 | 雇用保険に入っている会社員など |
自分のスキルアップのために個人で受講したい人は、この記事ではなく生成AIスクールの補助金・給付金の記事を見てください。
事業展開等リスキリング支援コースとは
新しい事業の立ち上げや、社内のDX化などにあわせて、従業員に新しい知識・技能を身につけさせる研修を会社が行ったときに、研修費と研修中の賃金の一部を助成する制度です。
対象になる会社・人
- 会社: 雇用保険の適用事業所の事業主
- 受講する人: その会社で雇用保険に入っている従業員(被保険者)
- 使えないケース: 訓練開始日・支給申請日・支給決定日の時点で、雇用保険の被保険者がいない事業所は対象外です
つまり、従業員を雇っていない一人の個人事業主や、一人社長の会社は対象外です。逆に、個人事業主でも雇用保険に入っている従業員がいれば、その従業員の研修は対象になりえます。
対象になる研修の条件
- 10時間以上であること(eラーニング・通信制は、標準学習時間10時間以上または標準学習期間1か月以上)
- OFF-JT(通常の業務と区別して行う研修)であること
- 職務に関連し、次のどれかに当てはまること
- 新しい事業を始めるために、新しい分野の知識・技能を身につける
- 社内のデジタル化・DXや、グリーン・カーボンニュートラル化に関わる業務のための知識・技能を身につける
- 人事・人材育成の計画に沿って、3年以内に担当する予定の別の職務に必要な知識・技能を身につける
「業務でChatGPTを使えるようにする」「AIで社内の事務を効率化する」といったAI研修は、2つ目のDX化に当てはまるかを考えるのが基本です。ただし、当てはまるかどうかは計画の中身で判断されます。研修の名前に「AI」とあれば通る、というものではありません。
助成率と上限(令和8年度)
| 項目 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
| 経費助成(研修費) | 75% | 60% |
| 賃金助成(1人1時間あたり) | 1,000円 | 500円 |
| 設備投資加算(要件あり) | 機器などの導入費用の50% | なし |
経費助成には、受講者1人あたりの上限があります。
| 研修の時間 | 中小企業 | 大企業 |
|---|---|---|
| 10時間以上100時間未満 | 30万円 | 20万円 |
| 100時間以上200時間未満 | 40万円 | 25万円 |
| 200時間以上 | 50万円 | 30万円 |
| eラーニング・通信制 | 15万円 | 10万円 |
| 定額制サービス(月額の受け放題など) | 1人1か月2万円 | 1人1か月2万円 |
そのほかの主なルールです。
- eラーニング・通信制・定額制サービスは、経費助成のみ。賃金助成は出ません
- 1つの事業所が1年度に受け取れる額は1億円まで
- 賃金助成の時間は、1人1計画あたり1,200時間まで
- 同じ従業員が受けられるのは1年度に3回まで。eラーニングは、令和8年8月3日以降に出した計画届では1年度に1回まで
- 研修費の消費税は、助成の対象経費に含まれます(支給要領の対象経費に「消費税」とあります)
- 中小企業かどうかは業種ごとの資本金または従業員数で判断します(例:サービス業は資本金5,000万円以下または常時雇用100人以下、小売業は5,000万円以下または50人以下)
受講料別:実際にいくら戻るか(中小企業の場合)
経費助成と賃金助成を分けて計算しました。賃金助成は受講料の割引ではなく、研修中も払っている給料の一部が戻るものです。受講料の実質負担は「受講料−経費助成」で見てください。
| ケース | 経費助成 | 賃金助成 | 合計 | 受講料の実質負担 |
|---|---|---|---|---|
| ライブ型オンライン講座 20万円・30時間・1人 | 15万円 | 3万円 | 18万円 | 5万円 |
| 同じ講座を3人で受講(計60万円) | 45万円 | 9万円 | 54万円 | 15万円 |
| 通学型 50万円・60時間・1人 | 30万円(上限) | 6万円 | 36万円 | 20万円 |
| 通学型 60万円・120時間・1人 | 40万円(上限) | 12万円 | 52万円 | 20万円 |
| eラーニング 30万円・1人 | 15万円(上限) | なし | 15万円 | 15万円 |
| 定額制サービス 月1万円×6か月・1人 | 4.5万円 | なし | 4.5万円 | 1.5万円 |
※ 計算はすべて、要件を満たし全額が支給された場合の目安です。賃金助成は、所定労働時間内に受講した時間が対象です。ライブ型オンライン講座は「同時双方向型の通信訓練」として、通学型と同じ扱いになります。
申請の流れ
| ステップ | やること | 期限 |
|---|---|---|
| 0 準備 | 職業能力開発推進者を選ぶ。事業内職業能力開発計画をつくり、従業員に知らせる | 計画届を出す日まで |
| 1 計画届 | 職業訓練実施計画届・事業展開等実施計画・対象労働者一覧・カリキュラムなどを管轄の労働局へ提出 | 研修開始日の6か月前から1か月前まで |
| 2 研修 | 計画どおりに研修を行う。研修費を全額支払う | 通学・ライブ型は受講時間の8割以上の出席が必要 |
| 3 支給申請 | 支給申請書・OFF-JT実施状況報告書・賃金台帳や出勤簿の写し・研修費の振込記録などを提出 | 研修終了日の翌日から2か月以内 |
計画届の期限は、たとえば研修開始日が7月1日なら「1月1日から6月1日まで」です。1日でも過ぎると対象外になります。定額制サービスの場合は、契約期間の初日の6か月前から1か月前までです。
申請は労働局の窓口のほか、厚労省の「雇用関係助成金ポータル」から電子申請もできます。
注意点
1. 期限つきの制度です
このコースは「令和4〜8年度の期間限定の助成金」として作られ、公式資料では「令和8年度末(2027年3月31日)までの時限措置」とされています。
ただし、年度末をまたぐ研修の扱いや、令和9年度以降に同じような制度が続くかどうかは、2026年10月20日時点の公式資料では確認できませんでした。 計画届は研修開始の1か月前までに出す必要があるので、今年度中に使いたい場合は早めに管轄の労働局へ相談してください。
2. 外部研修は、研修会社にも条件があります
外部のスクールや研修会社を使う場合、主に次の条件があります。
- 日本国内の法人で、定款や登記簿の事業目的に教育訓練事業が書かれていること
- eラーニング・通信制・定額制サービスなら、自社のホームページで広く受講者を募集している講座であること(特定の会社向けだけの講座は対象外)
- 研修会社が「支給申請承諾書」に承諾すること(不正に関わった場合に会社と連帯して返還する、などの内容)
申し込む前に、研修会社に「この助成金の対象講座として承諾書を出せるか」を確認しておくと安心です。
3. eラーニングにも給料の支払いが必要です
eラーニングや通信制でも、助成の対象になる研修は業務として受けるものなので、受講中も賃金を払う必要があります。所定労働時間外や休日に受けさせた場合は、割増賃金も必要です。
4. 不正受給のペナルティは重い
- 受け取った助成金の返還に加えて、年3%の延滞金と返還額の20%の違約金
- 会社名などの公表、悪質な場合は刑事告訴
- 不正をしてから5年間は、雇用関係の助成金を受けられない
研修会社からキャッシュバックや「アンケート協力金」「営業協力金」を受け取ると、会社が研修費を全額負担したことにならず、経費助成の対象外になります。「実質無料」「助成金で利益が出る」という勧誘は、厚労省が注意を呼びかけている典型例です。
5. 申請代行は社労士の仕事です
報酬を得て申請書の作成や提出代行ができるのは、社会保険労務士だけです。研修会社が「申請は無料で代行します」とうたう場合も、問題になることがあると厚労省は注意しています。
関連するコース
人材開発支援助成金には、ほかにもAI研修で検討できるコースがあります。
| コース | 中小企業の経費助成 | 賃金助成(1時間) | メモ |
|---|---|---|---|
| 事業展開等リスキリング支援コース | 75% | 1,000円 | この記事の中心。令和8年度末までの時限措置 |
| 人材育成支援コース(人材育成訓練) | 45%(賃金要件等を満たせば60%) | 800円(同1,000円) | 職務に関連する一般的な研修。非正規雇用の場合は70%(同85%) |
| 人への投資促進コース(高度デジタル人材訓練など) | 75% | 1,000円 | 令和8年度末までの時限措置。対象となる研修の条件が別に決まっている |
どのコースが合うかは研修の内容で変わるので、計画届を出す前に労働局で確認してください。
申請前のチェックリスト
- 受講させる人は、雇用保険に入っている従業員か
- 研修は10時間以上か(eラーニングは標準学習時間10時間以上または1か月以上)
- 研修の目的を、事業展開やDX化と結びつけて説明できるか
- 職業能力開発推進者を選び、事業内職業能力開発計画をつくったか
- 研修開始日の1か月前までに計画届を出せる日程か
- 研修会社は、承諾書の提出やホームページでの募集など、外部研修の条件を満たしているか
- 研修費を先に全額払っても資金繰りは大丈夫か
- 戻る額を「研修費×75%」と「上限」の小さいほうで計算したか
- 研修終了の翌日から2か月以内に支給申請するよう、予定を入れたか
研修そのものをどう選ぶかは、生成AIスクールの比較や料金相場の記事も参考にしてください。社員がまず何から使えばいいか迷っている段階なら、ChatGPTの仕事での使い方を社内で共有するところから始めるのも一つの方法です。
よくある質問
従業員がいない個人事業主でも、AIリスキリングの助成金は使えますか?
使えません。人材開発支援助成金は、雇用保険に入っている従業員に会社が研修を受けさせたときの制度です。被保険者がいない事業所は対象外です。個人で受講する場合の制度は、生成AIスクールの補助金・給付金の記事で整理しています。
eラーニングのAI講座でも助成されますか?
標準学習時間が10時間以上(または標準学習期間が1か月以上)などの条件を満たせば、経費助成の対象になります。ただし賃金助成は出ず、経費助成の上限は中小企業で15万円です。令和8年8月3日以降に出した計画届では、同じ従業員のeラーニングは1年度に1回までです。
研修を始めてから申請しても間に合いますか?
間に合いません。計画届は研修開始日の6か月前から1か月前までに労働局へ出す必要があります。
このコースはいつまで使えますか?
公式資料では「令和8年度末(2027年3月31日)までの時限措置」とされています。年度末をまたぐ研修の扱いや来年度以降の制度は、2026年10月20日時点の公式資料では確認できませんでした。管轄の労働局に確認してください。
社長や役員がAI研修を受けた場合も対象になりますか?
対象は雇用保険の被保険者です。社長本人など、雇用保険に入っていない人は対象になりません。役員でも雇用保険に入っているかどうかで変わるため、個別に労働局へ確認してください。
出典(2026年10月20日確認)
- 厚生労働省:人材開発支援助成金(コース一覧)
- 厚生労働省:事業展開等リスキリング支援コース 令和8年度版のご案内(令和8年4月8日版・リーフレット)
- 厚生労働省:事業展開等リスキリング支援コース 令和8年度版のご案内(令和8年8月3日版・詳細版パンフレット)
- 厚生労働省:事業展開等リスキリング支援コース 支給要領(令和8年8月3日版)
- 厚生労働省:雇用関係助成金ポータル(電子申請)
- 厚生労働省:各都道府県労働局の助成金申請窓口